〜人・分野・価値観が交わり、熟成してきた時間〜

ぬかどこトークは、うめらくの活動の中で唯一、会員からの招待がなければ参加できない招待制トークイベントとして、2025年にスタートしました。

うめらくは、都市部にある一つのコミュニティとして、うめきた周辺地域を拠点に、年齢・専門・立場・国籍を越えた多様な人々が出会い、それぞれの関心や問い、実践を持ち寄ることで、地縁と知縁が重なり合うプラットフォームとして活動しています。

制度や事業、既存の地縁があるからまちがつくられるのではなく、人と人との関係性や日々の実践が重なり合っていくプロセスこそが、まちを育てていくと考え、ウェルビーイング(よりよく生きる)を基軸に、暮らしや働き方、表現やケアといった営みが、地域や社会へとにじみ出していく循環を育てること。

それが、うめらくが描く「未来のまちにあるべきコミュニティ」の姿であり、ぬかどこトークは、そのビジョンを背景に生まれました。

その前身には、ウェルビーイングをテーマに語り合う対話の場(ウェルビな酒場)があります。

肩書きや立場を越えて自由に語り合う時間を重ね、足掛け2年にわたる対話と関係性の醸成を経て、ぬかどこトークという形へと育ってきました。

本トークでは、地域や社会の中で実践を重ねてきた方々をゲストに迎え、それぞれの問いや経験を共有していただいています。

参加者は、普段は交わることの少ない分野や価値観に触れながら、新たな視点や気づきを日常へと持ち帰っていきます。

ぬかどこトークは、単なる学びや居場所にとどまらず、家庭でも職場でもない「3rdプレイス」としての機能に加え、対話と内省を通して関係性や自己理解が育まれる「4thプレイス」として位置づけて開催しています。

それでは、ここから、これまでに開催された「ぬかどこトーク2025」の歩みを簡単に振り返ってみます。

4月
ビジネス × アート

話題提供:アート・アンド・ロジック  増村 岳史さん
論理や分析を積み重ねる思考に加え、アートの力によって思考そのものを更新する重要性についてお話しいただきました。

MBAがビジネス人材の象徴とされてきた一方で、近年のアメリカでは、デザインや創造性を専門的に学んだMFA(美術学修士)を持つ人材が、価値創造や成果に直結する存在として高く評価されている事例も紹介されました。アート思考は、右脳と左脳を行き来し、直感と論理を統合する感性として、不確実性の高い時代のビジネスやまちの現場において、新しい問いや仕事を生み出す力になることが示されました。

また、知識や制度を一方的に伝えるのではなく、感性をひらき、日常の中に生まれる小さな違和感を丁寧にすくい上げ、対話を通して学びや関係性へと編み直していくことの大切さも、印象的なメッセージとして残りました。

かつて音楽を専門に学び、アートとともに生きてきた経験を持つ一人として、そして現在は、社会教育とウェルビーイングを軸に人や活動をつなぐ立場として、あらためて立ち止まり、これからのコミュニティや学びのあり方を考える時間となりました。

頭だけで考えるのではなく、一人ひとりが自分らしい関わり方を選べる余白を残しながら、まちや社会と関わっていく。そんな姿勢を大切にし続けたいと感じた回でした。

(参考)増村 岳史さん 著

『ビジネスの限界はアートで超えろ』

(参考)増村 岳史さんの著書:「ビジネスの限界はアートで超えろ」

5月
コミュニティビジネスとしてのコミュニティデザイン

話題提供:株式会社ウェルビーイング阪急阪神 代表取締役社長 石原 敏孝さん 
これからのまちづくりは、地域の活性化そのものを目的にするのではなく、暮らす人の幸福感からまちを捉え直す視点として注目される「ウェルビーイング」についてお話しいただきました。

ポジティブ心理学や社会学などを横断する「幸福学」の視点から、幸福の定義や測定方法、幸福に影響を与える要因についての知見が共有されました。

また、「社会的なつながりを持つ人ほど幸福感や健康度が高い」というエビデンスが紹介され、ウェルビーイングや幸福を支える人や活動の存在が、まちづくりにおいて重要な役割を果たしていることを、あらためて実感しました。

ハード整備だけでなく、関係性や日常の営みに目を向ける「ソフトなまちづくり」への関心が、いっそう深まる回となりました。

6月
対話からはじまる認知症ケア

話題提供:  大阪大学大学院 医学系研究科 准教授/Japan Centre for Evidence Based Practice センター長【博士(看護学)、看護師、保健師】山川 みやえさん

「一人ひとりに合ったケアこそが大切」と考え、認知症の人やその家族に寄り添うケアを研究・実践をされている看護学の専門家の山川さんの会では、制度や支援の枠組みだけでは捉えきれない、当事者と家族のリアルな声から、支援のあり方と社会の受け止め方を見つめ直す時間となりました。
「支援する・される」という一方向の関係ではなく、日常の中で理解し合い、共に生きる関係性の重要性が語られました。

認知症ケアを個人や家族だけの問題として切り離すのではなく、まちや社会全体でどう受け止め、どう関わっていくのか。支援を“特別なもの”ではなく、日常の中にある関係性として捉え直すことの大切さを、改めて実感する時間となりました。

正解を出すためではなく、立場や経験の違いを越えて語り合い、声になりにくい思いや違和感に耳を傾けて丁寧に紡いでいく。そんな「対話」そのものが、まちのケアの土台になると感じ、このぬかどこトークでも、人と人との間にある小さな気づきを大切にしながら、共に生きる関係性を育む対話の場として重ねていきたいと思います。

7月
コミュニティと社会性(Sociality)から考えるまちづくり

話題提供:ロンドン大学(UCL)土木・環境・地政工学科教授(Chadwick Chair of Civil Engineering)Nick Tyler さん

人と環境の相互作用を実証的に研究する世界最大級の実験施設「PEARL」の責任者も務めるニックさんからは、「街のサイズ」「人の行動と関係性」「コミュニティのサイズ」という視点から、人中心のまちづくりについて共有いただきました。

工学にとどまらず、心理学や芸術など多分野を横断する研究実践を通して、都市やインフラは完成された構造物ではなく、人の行動や関係性によって常に更新され続ける「実験の場」であることが語られました。

また、公共交通のアクセシビリティや移動のしやすさが、人のウェルビーイングや社会参加にどのように影響するのかを、実験と実装の両面から検証してきた知見は、まちづくりをハードや規模の問題として捉えるのではなく、「人のふるまいから設計し直す」視点の重要性を示してくれました。

街を測る尺度を変えることで、コミュニティのあり方や関係性の質も変わっていく視点についても共有され、まちづくりの捉え方を広げてくれる回となりました。

10月
「旅する人事の社会的複業 〜医療福祉と地域をつなぐ越境プロジェクト〜」

話題提供:旅する人事  中西 信雄 さん 

医療・介護・福祉の現場と地域を行き来しながら、「社会的複業」という働き方を実践してきた中西さんの経験を通して、これからの働き方・暮らし方・社会との関わり方について考える回となり、社会的複業とは、副収入を得るための手段ではなく、自分の専門性や関心を、社会の「スキマ」に差し出し、仕事をつくっていく生き方であることが語られました 。医療・介護・福祉分野では、制度やサービスだけでは支えきれない課題が増える一方、越境によって生まれる関係性や共創が、地域に新しい循環を生み出している具体的な実践も紹介され、社会的複業という実践を通して、一人ひとりが自分らしい関わり方で社会に参加し、価値を生み出していく可能性を感じさせる回となりました

11月
社会的処方~繋がりで心身をケアする取り組み〜

話題提供:コミュニティドクター、精神科医 大植 堯文さん

BPS(Bio-Psycho-Social)モデルという全人的医療のフレームを起点に、ウェルビーイングを「理論」ではなく「実践」として捉え直すお話が共有されました。

大植さんからは、BPSモデルを実践することそのものがウェルビーイングを目指すことにつながるという視点のもと、一人ひとりのウェルビーイングなあり方をどう高めていくのか、そのために自分自身の活動がBPSのどこに注力しているのか、そしてそれが他者やまちの活動とどのように交差していくのかが語られました。

医療・心理・社会という要素は、個人の中で完結するものではなく、人との関係性や地域の文脈の中でこそ意味を持つ。そうした視点は、ウェルビーイングを「個人の状態」ではなく、「関係性の中で育つプロセス」として捉え直すきっかけとなりました。

専門職の知と、市民や地域の実践が混ざり合うことで、ウェルビーイングはより立体的に、持続可能なものになっていく。個人とまちの間にある“交差点”を見つめ直す回となりました。

12月
『制度とハサミも使い様』✨ 〜制度の表と裏、ラインの中と外の活用でオモシヨく〜

話題提供: BBQ.care合同会社代表 日替わりバー「 &BAR OSAKA KYOUBASHI」代表 佐賀祥史さん  

介護・看護といった「ケア」を起点に、まち・カルチャー・働き方を横断する実践について共有いただきました。

佐賀さんからは、“これまで無駄だと見なされてきたものや、誰も手をつけてこなかった領域をあらためて見つめ直し、異なる要素を掛け合わせることで新しい価値を生み出していく”というアプローチが語られました。この視点は、福祉分野にとどまらず、まちづくりやコミュニティづくりにも通じるものです。

ケアを「支援」や「福祉」という枠に閉じるのではなく、人や地域に眠る感性や知恵を引用し、編集し、まちへとひらいていく。その実践の中で、福祉業界で働く人たち一人ひとりの「個」を活かす姿勢が印象的でした。「ケアする人を、まずケアする」という考え方のもと、パラレルキャリアを前提とした働き方や組織づくりは、結果としてケアの質を高め、地域の豊かさへとますます還元され、まちの価値そのものを更新していく可能性を感じる回となりました。


2025年の振り返りと、2026年の展望

2025年のぬかどこトークは、2016年に「うめらく」というコミュニティを立ち上げてから10年目を迎える節目の年に、新たに立ち上げた「場」でもありました。それは同時に、これまでの取り組みを振り返り、次の歩みを考える時間でもありました。

この10年間、「まちづくりは、地域に暮らす人やハードをつくる開発事業者だけで完結するものではない」という考えを軸に、既存の地縁コミュニティ(自治会・町会)とも関わりながら、新しいまちとの関わり方を模索してきました。

活動を続ける中で強く感じるようになったのは、「まちに関わりたい」「社会をもっとよくしたい」と願う人が、想像以上に多く存在する一方で、それぞれのコミュニティが分断されていることこそが、課題が解決されにくい要因の一つである、ということでした。

そうした人たちとまちをつなぐためには、無理のない関わり方の入り口を増やし、関係性を丁寧に紡いでいくことが重要だと考えるようになりました。

住み続けたいと思えるまちや、困難な状況に直面しても立ち直る力を持つ地域は、小さな関係性の積み重ねによって育まれていきます。そのことを、実践を通して学ぶことができた10年間でもありました。

昨年、うめらくが開催したさまざまな場には、防災・防犯、社会教育、健康、福祉、地域振興、地域連携、地方創生、青少年育成、環境保全、アップサイクルなど、暮らしと仕事を横断する多様な分野から、それぞれの関心や専門性を持つ人々が集いました。

参加者が自身の想いや問いを言葉にし、共有する姿が数多く見られたことは、これまでの取り組みの一つの成果であったと感じています。

今後は、それぞれの活動が少しずつ可視化され、まちとの関わりがより立体的に広がっていくことを期待しています。私自身も実践者として活動を続けながら、対話を通して伴走し、暮らしに役立つ取り組みへと発展させていくことで、地域の中で「よりよく生きること(ウェルビーイング)」の循環を育てていきたいと考えています。

とりわけ、5月の回で取り上げられた「ウェルビーイングをエビデンスで示す視点」は、うめらくの理念と現場の実践をつなぐ重要な軸になると感じました。この視点については、今後さらに深く掘り下げ、研究していきたいと考えるようになりました。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を捉える考え方であり、地域における暮らしの質や幸福感を多面的に捉えるものです。

デジタル庁が進める「地域幸福度(Well-Being)指標」は、主観と客観の両面から「暮らしやすさ」と「幸福感」を可視化する指標として、現在では自治体のまちづくりや政策立案にも活用されています。

こうした視点を現場で生かすため、理論と実践を行き来しながら学びを深める場として、今年度からは、過去にぬかどこトークに参加してくれた人たちを中心に、「ウェルビーイング研究会」を定期的に開催していく計画です。

このように、私自身もぬかどこトークで重ねられてきた数多くの対話の中から、新たな気づきを得てきました。

今後は、そこから派生する実践を通じて実験を重ね、そのプロセスや学びを、参加者や地域の皆さんと共有していきたいと考えています。

写真:12月のぬかどこトークの様子。ぬかどこトーク2026の関係案内人(コミュニティリーダー)河上さんと一緒につくっていきます。どんなコミュニティに熟成するのか楽しみです!

今年もどうぞよろしくお願いします!


文:山田摩利子